以前、患者さんでご高齢の男性の方がいました。その方の普段の訴えは腰痛で、鍼をすると楽になって喜んで頂いていました。
突然の往診以来
ある日、腰痛が酷くて起き上がれないので往診に来てほしいとの依頼がありました。
ご自宅に伺ったところ、患者さんは部屋でベッドにあおむけに寝たままの状態でおられました。
話を聞くと、体を少しでも動かすと激痛が走るので、まったく身動きが取れない状態とのこと。
とりあえず、どうして痛みが起こったのかさらに詳しく話を聞いたところ、転んだりしたこともなく、全く思い当たる原因はなく、急に痛くなったということでした。
治療をするかどうかの判断
とりあえず、治療をする、しないの判断のためにも、腰の状態を確認しないことには始まりません。
しかし、患者さんは痛みのため身動きが取れません。
ですが、さすがに仰向けのままでは肝心の腰の状態が分からないため、大変心苦しかったんですが、痛いのを我慢してもらいつつ横向きになってもらうことにしました。
もちろん自力では不可能ですから、こちらが抱きかかえて、なるべく体に力が入らないようにして横向きにしようとしました。
ですが、その瞬間「痛っ!いだだだだだだ!!」と大声を上げられ、ひぃひぃと泣きそうな感じで呼吸を荒げながら、「痛い~、痛い~。」と呻いておられます。
その様子からも、普通の腰痛でないことは明らかでした。
そこで、私はすぐにあることを疑いました。
それは、圧迫骨折です。
圧迫骨折かどうかの確認
骨折をしているかどうか確かめる時には、骨折を起こしていると推測される場所から離れた骨を叩いて、その振動による痛み(介達痛:かいだつつう)が起こるかどうかを確かめるという検査があります。
そして、もう一つ、骨折しているであろう部位を叩いて、痛みが増強する(叩打痛:こうだつう)かどうかを確かめるという検査の二つがあります。
そこで私は、まず負担の少ない介達痛の検査から行うことにしました。
腰の骨から離れた、胸の高さの背骨の上に左手を置き、その上から軽くトントンと叩きます。(骨折の場合は痛みが強い為、軽く叩くだけでも問題の場所に痛みが起こります。)それをいくつかの場所で行い、介達痛の有無を確認しました。
検査の結果
その結果、思った通り、腰の骨に振動による介達痛が出るようでした。
そこで、直接痛みを誘発する叩打痛の検査は行わずに、「圧迫骨折の疑いがあるため、病院で見てもらう方が良い」とご本人とご家族に伝えました。
私としては、痛みを取ることは無理であると感じていたので、治療をするよりもすぐにでも病院へ行って欲しかったのですが、ご本人は「とりあえず少しでもこの痛みから解放されたい、鍼をすれば痛みがましになるかもしれない」と、鍼治療を希望されました。
そこで、「もし、鍼が効けば心配はいらないと思いますが、恐らく鍼は効果が無いし、明日も痛みが続くと思うので、明日も同じように痛かったら即座に病院へ行ってくださいね。」と念入りに約束をして、出来る限りの治療を行いました。
しかし、予想通り、治療後も痛みはまったく変わりませんでした。
そして病院へ
それから数日後電話があり、結局翌日も痛みは変わらなかったため、病院へ行ったところ、診断の結果は「腰椎圧迫骨折」だったということでした。
私が圧迫骨折を見抜けた理由
この時のケースは、圧迫骨折の話を以前から勉強会などで聞いていた事がとても役に立ちました。
もし、勉強不足で圧迫骨折ということを見抜けなければ、無駄に治療を続けて、患者さんの苦しい思いを長引かせてしまっていたかもしれないと考えると今でも背筋がぞっとします。
このように、ご高齢の方の腰痛の訴えなどは、まず骨折を疑っても良いと思います。
ですから、もしご家庭でおじいちゃんおばあちゃんがものすごく痛がってる場合は、すぐに病院へ連れていってあげてくださいね。
※当院の治療効果には個人差があります。
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